宮崎地方裁判所 昭和60年(行ウ)3号 判決 1993年5月17日
原告
延岡五ケ瀬川漁業協同組合
右代表者理事
井上忍
右訴訟代理人弁護士
成見幸子
同
成見正毅
右成見正毅訴訟復代理人弁護士
真早流踏雄
被告
宮崎県知事 松形祐堯
右指定代理人
齋藤博志
同
前田幸保
同
呉屋栄夫
同
江上久継
同
福島睦泰
同
佐藤力生
同
黒木克紀
同
迫田巖
同
川越道郎
同
渡邊公士
理由
第一 本件共有請求認可処分取消し請求について
一 被告の本案前の主張について
漁業法一三五条の二、地方自治法一四八条一項、二項、別表第三の一(八八)、行政不服審査法五条、六条によれば、原告が、本件共有請求認可処分について、処分取消しの訴えを提起するには、審査請求に対する裁決を経た後でなくてはならない。そこで、本件において、原告による右審査請求が経由されたといえるかどうかについて検討する。
〔証拠略〕によれば、原告代表者は、本件共有請求認可処分がされた後で、原告が右処分を知った日の翌日から六〇日以内の日である昭和六〇年二月二〇日、宮崎県副知事に面会し、内水面第五種共同漁業権は、増殖や河川管理の義務を必然的に伴うものであるから、その能力を有しない漁協にはこれを付与すべきでないところ、訴外組合の代表者は、暴力常習グループに所属し、その役員に犯罪歴多数を有する者が就任しており、訴外組合には増殖や河川管理の意思及び能力がない旨を述べ、本件共有請求認可処分を速やかに取り消すよう要求するとともに、同趣旨の記載のある「抗議及び要請書」と題する被告宛の書面(以下「本件書面」という。)を交付したことが認められる。ところで、ある書面が審査請求申立書であるか、あるいはそのような意味を有しない単なる抗議書ないし陳述書に過ぎないかは、当該書面の形式を外形的に観察して判断すれば足りることではなく、申立人の真意がどのようなものであるかを、書面の形式、内容、提出する際の提出者の言動等を総合的に判断して決定すべきものと解するのが相当である。そこで、この見地から本件について検討するのに、本件書面の名宛人は被告となっており、被告に対して本件共有請求認可処分を取り消すべきことを求めてはいるものの、その内容は、右処分が違法であると考えるゆえんを具体的に指摘し、その取消しを明確に求めていること、審査請求は、処分庁を経由してこれを行うこともできること(行政不服審査法一七条)等を考慮すると、前記書面は、これを審査請求書と評価するのが相当である。そして、右審査請求書の提出の後三か月を経過しても裁決がされていないことは、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。よって、本件共有請求認可処分取消し請求に関する被告の本案前の主張は理由がない。
二 本案について
1 本件共有請求認可処分は、五ケ瀬川という内水面に関するものであるところ、内水面においては、海面と異なり、一般的に専業的漁業従事者は少なく、その保護の必要性が比較的少ない反面、当該内水面周辺に居住する住民一般が採捕や遊漁を行って楽しむという側面が強く、内水面は、この意味で一般国民の公共の場として利用されるべきものであり、特定の漁業従事者側に排地的、独占的な利用権を与えることは、右の意味において相当ではないと考えられる。しかし、他方、自然的豊度の乏しさや採捕が容易であるといった内水面の特質からすると、自然の状態のまま放置することは、資源の枯渇につながり、結局は、一般国民にとり不都合な事態が生じる可能性の高いこととなる。そこで、右の二つの要請を調和させる手段として、漁業法は、一二七条において、漁協等に内水面第五種共同漁業権を免許するとともに、同漁協等に増殖義務を課し、かつ、漁協等による増殖義務の懈怠については、知事の増殖命令に従わなかった場合につき、漁業権の取消しを知事に義務づけているのである。内水面第五種共同漁業権に関する以上のような漁業法の規定に照らすときは、右漁業権の権利としての度合いは、海面に関する他の漁業権に比較し、相対的に低いものと解さざるを得ない。以下においては、内水面第五種共同漁業権の以上のような基本的性格を前提として本件共有請求認可処分の当否について検討する。
2 原告は「訴外組合の設立手続に瑕疵があることを理由として、本件共有請求認可処分が違法である旨主張している。ところで、共有請求認可を受けた組合の設立が、法令に違反している等のため当然に無効である場合には、このような組合に対する共有請求認可処分は違法であり、右認可処分につき法律上の利害関係を有する者は、組合設立の無効を理由として共有請求認可処分の取消しを求めることができると解される。しかし、設立手続に関する水協法五九条から六三条に定める事項の一つに反したとの事由のみで、当然に共有請求認可処分を取り消すべきものと解することはできない。けだし、漁業法一四条一〇項、四項の趣旨は、ある組合に内水面第五種共同漁業権の漁業免許が付与された際、関係地区内に居住し、年に三〇日以上水産動植物の採捕又は養殖をする者で、前記組合に加入しなかった少数者についても、これらの者は、最初から漁業権取得による利益を受け得る立場にあった者なのであるから、その権利保護のため、少数者の設立する組合にも多数者と同様の権利を与えることにあると解され、また、水協法六四条の規定も、行政庁による漁協の設立認可につき、要件に該当する場合に限り認可するとしているのではなく、特定の場合を除き設立認可しなければならないとの表現になっているからである。以上の見地から本件設立認可手続をみるのに、訴外組合の設立が無効であると認めるべき証拠はなく、かえって、〔証拠略〕によれば、訴外組合の設立手続に関する基本的事項に瑕疵はなく、訴外組合は、有効に成立したと認めることができる。なお、〔証拠略〕によれば、昭和五五年一月一五日に開催された訴外組合の設立準備会の議事録には、夏田謹一が設立発起人の一人として出席した旨の記載があるところ、〔証拠略〕によれば、同人は、右準備会には出席していたかったことが認められる。しかし、〔証拠略〕によれば、訴外組合の設立準備会そのものは右期日に開催され、所要の決定がされたことが認められるから、前記瑕疵の存在は、本件共有請求認可処分の取消事由になると解することはできない。その他、本件全証拠によるも、訴外組合の設立手続に本件共有請求認可処分の取消事由となるべき瑕疵があるとは認め難い。
3 原告は、訴外組合は水協法六四条二号に該当するから、被告は訴外組合の設立認可をすべきでなかったと主張する。しかし、〔証拠略〕によれば、訴外組合の主たる事業目的は、魚類の繁殖保護と河川の管理であることが認められるところ、訴外組合は、組合員からは行使料を、遊漁者からは遊漁料を徴収してその財源とすることが可能なのであるから、組合設立時にはさほどの経済的基盤は必要でないと考えられること、〔証拠略〕によれば、訴外組合は、昭和六一年以降、延岡市の担当職員等の立会いを得て定期的に稚魚の放流を行っていることが認められる。これらの事実からすると、設立時又は設立認可時において、訴外組合の事業の目的を達成することが著しく困難であったとは認め難いものというべきである。
4 原告は、訴外組合が反社会的常習暴力集団に支配されていることを理由として、その設立認可が違法であると主張する。そして、〔証拠略〕によれば、訴外組合の設立発起人中には、暴力犯罪による前歴を有する者が相当数含まれていることが認められる。しかし、この事実から訴外組合が反社会的常習暴力集団に支配されていることを推認することには無理があるといわねばならない。更には、内水面における第五種共同漁業権は広く一般住民等にも開放されるべきものであること、暴力犯罪の前歴を有する者も右の例外ではないこと、右のような社会的不利益を有する者こそが、その前歴によって制約を受けることが少ない内水面漁業を営む必要性があるとも考えられること、一旦漁業権を与えたとしても、被告には種々の監督権限があり、最終的手段としては漁業権を取り消すことも可能であること、原告の有する内水面第五種共同漁業権は海面に対する漁業権と比較すると、その権利性は相対的に弱いものであること等の事情を考慮すると、訴外組合において、被告がその設立を認可した趣旨に反する行為等を行う恐れがあるとしても、原告主張のように、事前に組合の設立そのものを許さないとするような行政権の発動を行うのは相当でなく、事後的監督手段によるべきであり、そのように解しても原告の権利保護に欠けるところはないというべきである。なお、弁論の全趣旨によれば、昭和六二年と昭和六三年の両年度については、宮崎県内水面漁業管理委員会の調整を受け、五ケ瀬川において、原告及び訴外組合の両組合員による瀬付き鮎竿つり漁が行われたが、格別の混乱は生じなかったことが認められ、この事実も右認定を裏付けるものということができる。よって、原告の前記主張は採用できない。
5 原告は、本件共有請求認可処分には宮崎県内水面漁場管理委員会の意見を聞いていない違法があると主張する。しかし、〔証拠略〕によれば、被告は、訴外組合からの本件共有請求認可申請を受けて、管理委員会に意見を求めたところ、同委員会から漁協組織を一本化することにより解決すべきである旨の答申を得たこと、そこで、被告においては、原告と訴外組合との合併を指導し、ほぼ合意に至った時期もあったが、原告内部における意見の対立のため合併が実現する可能性はほぼなくなったこと、原告は、昭和六〇年一月二四日、管理委員会に対し、合併実現の可能性がないので共有請求を認可したいがどうかとの意見を付して諮問したところ、右委員会は、同年二月四日、合併の実現が見込めない以上共有請求認可もやむを得ない旨の答申をしたこと、がいずれも認められる。右に認定した事実からすれば、被告は管理委員会の意見を十分聞いた上で本件共有請求認可処分をしたものというべきであり、原告の前記主張は理由がない。
6 原告は、訴訟組合は本件共有請求をし、又はその認可を受けるべき適格性がないと主張し、その理由として、訴外組合が反社会的常習暴力集団に支配されていること及び一河川一漁業権の原則に反する等を主張している。しかし、右前段の主張が理由のないもので採用できないものであることは先に述べたとおりである(前記4)。そして、共有請求認可処分についても、訴外組合の理事中に暴力犯罪による前歴を有する者がいるとしても、組合の設立認可処分について述べたのと同様の理由で、訴外組合に対する監督処分は、事後的なもので足りるとすべきである。次に、原告の主張後段についてであるが、原告の主張するところは明らかとはいい難いけれども、一河川には一漁業権しか与えられるべきではないとの主張であるとすれば、訴外組合に対し本件共有請求認可処分がされたからといって、二つの漁業権が与えられたことになる訳ではないから、その理由のないことは明らかである。また、既存組合との間に管理協定が締結されていないのに被告において本件共有請求認可処分をしたのが違法であるとの趣旨であるならば、そのような解釈をとると、既存の漁協が管理協定の締結に応じない以上、被告は少数者の設立した漁協による共有請求を認可することができなくなるが、この結果は、前述した漁業法一四条の趣旨に反することとなろう。よって、原告の前記主張後段も採用できない。
7 以上のとおり、本件共有請求認可処分が違法であるとして原告が主張するところはいずれも採用できず、他には本件共有請求認可処分が違法であることを疑わせる主張立証はない。よって、本件共有請求認可処分の取消請求は理由がない。
第二 本件共有請求認可処分の無効確認の訴えについて
一 行訴法三六条前段の要件について
1 行訴法三六条は、前段において「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」に、無効確認の訴えの原告適格を認めている。そして、原告は、被告による本件行使規則認可処分及同変更認可処分並びに遊漁規則認可処分が後続処分に該当するとし、本件行使規則認可処分による損害として、<1>訴外組合が原告の管理区域内の最も良い瀬に入ってきたために、この瀬を禁漁区とせざるをえず、原告組合員が瀬付き漁業から締め出されると同時に、鮎の漁獲ができなかったために人工孵化用の親鮎の収集に打撃をうけたこと、<2>訴外組合の割り込み区域が拡大すると、原告の行使料等事業収入が減少すること、<3>原告から承認を受けた遊漁者が訴外組合関係者から妨害を受ける結果、原告の遊漁料収入が減少すること、<4>旭化成との補助金交渉において、原告を含む既存三組合が訴外組合の補償交渉への参加に反対している状況の中では、補償協議が成立しなくなるおそれがあるし、仮に成立しても、原告組合の取得する補償金額が減少することなどを主張し、また、遊漁規則認可処分による損害としては、<5>訴外組合が遊漁承認証を発行し始めることによって、秩序ある漁業管理ができなくなるとともに、原告の遊漁料収入が減少することを挙げている。
2 そこでまず、いかなる処分が本件共有請求認可処分の後続処分に該当するかについて検討するのに、これに該当する処分は、無効確認訴訟の対象たる処分と一連の手続を構成する処分に限定されるものというべきである。けだし、そのように解しないと、後続処分の範囲があまりに広がりすぎ妥当でないからである。この見地からすると、共有請求の認可処分と行使規則認可処分とは、いずれも少数者組合の組合員が、共同漁業権を行使することができるようにするための一連の手続を構成すると解することができるのに対し、行使規則の変更認可処分は、既に行政規則が認可されて右組合員が共同漁業権を行使することができるようになった後に、当該行使規則の内容を変更しようとするものにすぎず、共有請求認可処分と一連の手続を構成すると解することはできない。次に遊漁規則の認可処分の後続処分性について検討するのに、右処分は、共同漁業権共有請求認可処分と行使規則認可処分とにより、当該漁協又はその組合員が現実に漁業を営むことができることとなった後、第三者である遊漁者に対する関係において必要となる手続なのであるから、これを共同漁業権共有請求認可処分と一連の手続を構成する処分であると評価することはできない。以上のとおり、行使規則の変更認可処分と遊漁規則認可処分は、これを行訴法三六条前段にいう後続処分と認めることはできない。
3 先に述べたとおり、本件共有請求認可処分に関しては、本件行使規則認可処分は、行訴法三六条前段にいう後続処分に該当する。そこで、次に、原告がこの後続処分によって損害を受けるおそれがあるかどうかについて検討する。
行使処分の無効確認訴訟は、過去の事実の効力の有無を審理対象とするという意味において例外的訴訟形態であることからすると、行訴法三六条前段にいうところの「損害」は、これを厳格に解釈すべきであり、この見地からすると、右の「損害」とは、後続処分の直接の効果として生じる不利益を意味すると解するべきである。そこで、訴外組合の行使規則が認可されることにより、原告がいかなる損害を被るかについて検討するのに、原告は、訴外組合の共同漁業権共有請求が認可されたことにより、その時点で、五ケ瀬川に対する第五種共同漁業権の共有持分割合は既に減少しており、訴外組合の行使規則が認可されたからといって、原告の有する共同漁業権の内容に変化が生ずるものではない。行使規則認可の効果は、訴外組合員が現実に漁業を営むことを可能にする点に存するからである。この意味において、原告が、行使規則の認可によって被る損害と主張しているところのものは、訴外組合の組合員が五ケ瀬川に入って現実に漁を行うことによって生じる事実上ないしは間接的不利益であって、本件行使規則認可処分に基づく直接の効果として不利益と認めることはできない。そして、他に、後続処分によって原告が被る直接の不利益を認定するに足りる証拠はない。
4 以上のとおりであり、行訴法三六条前段を適用して原告適格を肯定することはできない。
二 行訴法三六条後段の要件について
1 同条は、「当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないもの」についても、無効確認の訴えの原告適格を認めている。そこで、本件共有請求無効確認の訴えが右条項に該当するかどうかを検討するのに、原告が訴外組合の共同漁業権及びその組合員の漁業行使権を否定するには、共同漁業権の共有持分権に基づき、共同漁業権不在確認の訴え及び漁業行使権不存在確認の訴えをそれぞれ提起することが可能であり、また、訴外組合の組合員が当該漁場において漁業を営み始めた場合には、共同漁業権の共有持分権に基づく妨害排除請求訴訟を提起することによってその利益を十分保護することができるといえる。
2 この点に関し、原告は、<1>共同漁業権の共有者全員の間で紛争を一挙に解決するためには、共同漁業権の共有関係にある他の既存の二組合を訴訟当事者としなければならないが、これは無意味なことである、<2>訴外組合との間で訴訟を行ってもその判決の効力は被告に及ばないから、目的を達することができない、<3>本件において、紛争を最も直截的に解決する訴訟形態は、被告を相手方とする処分無効確認訴訟である、と主張する。しかしながら、紛争の中心は、原告と訴外組合又はその組合員との間で、訴外組合には共同漁業権が、その組合員には漁業行使権がそれぞれ認められるのかどうか及び訴外組合の組合員が当該漁場において実際に漁業を営むことを阻止できるのかどうかということにあるのであるから、まさにその点を原告と訴外組合又はその組合員との間で争う訴訟形式が紛争の実態に即したものであって、紛争の解決及び原告の救済に資するということができる。また、原告としては、原告と訴外組合及びその組合員との間における紛争が解決されるならば、その権利保護には十分であり、他の二組合と訴外組合との間で、訴外組合の共同漁業権の存否が確定されていないとしても、そのことが原告の法的地位に影響するとは解し難い。なお、〔証拠略〕によれば、原告は、他の二組合とともに本件各処分の無効を前提とする民事訴訟を提起し、これにより訴外組合及び同組合員による現実の漁業権の行使は阻止されており、原告が本訴において意図した目的は、右民事訴訟において達成されていることが認められるのであり、この事実も前記認定・判断を裏付けるものである。よって、原告の前記主張は理由がない。
三 以上のとおりであり、本件共有請求認可処分の無効確認の訴えは、行訴法三六条の要件を欠くものであり、不適法である。
第三 本件行使規則認可処分取消しの訴えについて
一 訴訟要件について
1 適法な審査請求がされたか
〔証拠略〕によれば、原告は、本件行使規則認可処分につき昭和六一年三月二〇日に農林水産大臣宛審査請求をしていることが認められる。そして、〔証拠略〕によれば、原告が本件行使規則認可処分がされたのを知ったのは、昭和六一年二月三日であったと認めることができる。そうすると、原告は、本件行使規則認可処分については適法に審査請求を経由しているものというべきであり、その後三か月を経過するも裁決がされていないことは弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。
2 本件行使規則認可処分の取消しを求めるにつき、原告に法律上の利益があるか
行使規則は、漁協が有する漁業権の範囲内において所属組合員に具体的な漁業権の行使の権利を付与するために制定される漁協内部の自治規則であることは、被告の主張するとおりである。しかし。被告が右規則の認可をしなければ、訴外組合の組合員は現実に漁業を営むことはできないのであり、原告の有する漁業権は、本件行使規則認可処分によって現実、具体的に影響を受ける関係にあるものということができる。このような原告の立場は、本件行使規則認可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者というに妨げないものというべきである。なお、原告は、本件共有請求認可処分の後続処分である本件行使規則認可処分によって「損害」を受ける者に該当しないことは先に述べたとおりであるが、それは、過去にされた行政処分の無効確認訴訟が例外的に認められるものであるため、「続く処分により損害を受けるおそれ」を後続処分によって直接生じる不利益に限定的に解釈するべきであることによるものであるから、本件行使規則認可処分によって原告が法律上の不利益を受けると認定することと矛盾するものではない。よって、本件行使規則認可処分の取消しの訴えに関する被告の本案前の主張は理由がない。
二 本案について
1 原告は、訴外組合の設立は無効であり、また、本件共有請求認可処分が違法であることを前提として、そのことの故に本件行使規則認可処分が違法であると主張している。しかし、訴外組合の設立を無効とは認め難いこと及び本件共有請求認可処分が適法なものであることは先に述べたとおりであるから、原告の右主張は採用できない。
2 原告は、本件行使規則認可処分は、漁業権の共有者間で漁業権の行使協定が締結されていないにもかかわらずされたもので、漁場に混乱をもたらすことが明らかであるから、違法であると主張する。確かに、複数の漁協に共同漁業権が認められている場合、漁場における混乱を事前に阻止する見地からは、漁業権行使規定の締結がされた後に行使規則の認可がされることが望ましいことは明らかである。しかし、それ以上に協定の締結が行使規則認可の要件であるとは解し難く、その理由は以下に述べるとおりである。すなわち、〔証拠略〕によれば、五ケ瀬川の共同漁業権を有する漁協は、原告、訴外組合を含めて四組合であるところ、共有持分割合は均等であることが認められる。原告主張のように、協定の締結が行使規則認可の要件であるとすると、訴外組合は、既存三組合の同意を得ることができない以上、いいかえれば、既存三組合が訴外組合との協議を拒否しさえすれば、訴外組合の組合員は、組合が漁業権を有し、漁業法八条に規定する要件を備えた行使規則を制定したにもかかわらず(法文上、他の共同漁業権者との行使協定の締結は、行使規則の内容として定めるべきものとはされていない。)、現実に漁業に従事することはできないことになる。漁業権の共有組合間での内部紛争は、裁判所に対する漁業権分割請求は、漁業法二二条の関係で困難であるとしても、共有者間の共有物の管理に関する紛争として民事的に解決すれば足りることである。また、漁業法八条の文理からは、行使規則認可処分における審査の対象は、行使規則の内容が同法に違反していないかどうかに限られ、共同漁業権者がいる場合に、行使規則の制定による混乱が生じないよう、行使協定が締結されているかどうかという点までは及ばないものとしていると解するのが自然である。以上のとおり、漁業権の共有組合間で管理協定が締結されていることは、被告による行使規則認可の要件であるとは解されないから、これと異なる見解を前提とする原告の主張は理由がない。
3 以上のとおり、本件行使規則認可処分が違法であるとして原告が主張するところはいずれも採用できず、他には本件行使規則認可処分が違法であることを疑わせる主張立証はない。よって、右処分の取消し請求は理由がない。
第四 本件行使規則認可処分無効確認の訴えについて
一 行訴法三六条前段の該当性について
1 原告は、行使規則変更認可処分及び遊漁規則認可処分が後続処分に該当する旨主張する。
2 しかしながら、前述のとおり、同条にいうところの後続処分とは、当該処分と因果関係のある一切の処分を指すのではなく、当該処分と一連の手続を構成する処分に限定して考えるのが相当である。しかるに、行使規則認可処分と同規則変更認可処分及び遊漁規則認可処分の間にはそのような関係を認めることはできないから、右各処分をもって後続処分と解することはできない。また、右の点を措くとしても、原告の主張する「損害」は、本件共有請求認可処分無効確認の訴えについて述べたと同様、訴外組合ないしはその組合員(組合関係者)による間接的かつ事実上の不利益であり、前記各処分による直接の効果ということはできないから、同条前段にいうところの「損害」と解することはできず、他に、右「損害」に該当する事実の存在を認めるに足りる証拠はない。
3 したがって、いずれの点からも、同条前段に該当するということはできない。
二 行訴法三六条後段の該当性について
原告は、共同漁業権の共有持分権に基づき、訴外組合を相手方として共同漁業権不存在確認の訴えを提起し、あるいは、訴外組合の組合員の相手方として漁業行使権不存在確認の訴え又は妨害排除請求訴訟を提起することができるのであり、これらによって、本件行使規則認可処分の無効確認の判決を求める以上に原告の利益救済を端的に実現することができることは、既に本件共有請求認可処分無効確認の訴えについて述べたと同様である。したがって、行訴法三六条後段の要件に該当するということもできない。
三 よって、本件行使規則無効確認の訴えについても、原告は、原告適格を有しない。
第五 以上によれば、本件共有請求認可処分取消し及び本件行使規則認可処分取消しの各請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり、右各処分の無効確認の訴えは、いずれも不適法として却下を免れない。よって、訴訟費用は原告に負担させることとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加藤誠 裁判官 登石郁朗 後藤隆)